2013年08月27日

厳しくも優しい言葉たち『部下を育てるリーダーのレトリック』

部下を育てる リーダーのレトリック 

 

「部下を育てるリーダーのレトリック」

中竹竜二:著

日経BP

 

先日、イチロー選手が4000本安打を記録し、

その時のインタビューで

「4000本のヒットを打つには、8000回以上は悔しい思いをしてきた」

といった彼の言葉が話題なりましたね。

 

スポーツの世界で鍛えられたアスリートやコーチの言葉は

時に示唆的で、ビジネスの世界にも応用できるものがあったりします。

 

しかし・・・ともすると異質の世界の話しだけあって、

どのように現場に落とし込めば良いのかが分からなかったり、

言葉(名言)だけが一人歩きしてしまうこともあったりすると思います。

 

この本の著者、中竹竜二氏は早稲田大学のラグビー部で主将として

活躍した後、留学を経て一般企業に就職。

その後、母校の早大のラグビー部監督に就任という経歴があるだけに、

ラグビーの現場の話しだけではなく、一般企業の中でのケーススタディも

随所に盛り込まれているので、ビジネスマンが読んでも、分かりやすく

実践しやすいように書かれていると感じました。

 

Amazonの内容紹介 

あなたは何気ない一言で若手を潰していませんか――。

「リーダーは言葉を熟慮し、駆使すべき」の信念で、ラグビー選手の

指導・育成に当たり、早稲田大学、U20日本代表で成果を上げてきた

筆者が、若手のやる気を引き出す言葉のかけ方を具体的に指南する。

 

なお、この本は日経BP社様より頂戴しました。ありがとうございました。

 

■言葉が人を動かす

先ずこの本のタイトルの一部にもなっている「レトリック」という

言葉の意味ですが・・・ 

「レトリック(rhetoric)」とは、古代ギリシアに始まった効果的な

言語表現の技術であり、日本では「修辞学」と呼ばれる。

歴史を振り返れば、皇帝、武将などが必ず学ぶ教養科目の1つだった。

側近の部下はもちろん、時に民衆や一兵卒にもわかりやすく物事を伝え、

納得させ、人を動かすことが重要だった彼らにとって、

必須のスキルだったのである。(P4)

 つまり、組織や人を動かすのに大切な言葉の選び方、使い方という

意味合いでしょうか。

 

昔は上司の背中を見て人は育つとか、ワザは盗むものとかって

言ったりしてましたが、イマドキそんなこと言ってたら

誰も付いてきません。。

(もちろん上司がチャランポランな態度だったら、尚更ですが)

 

リーダーが口にする「言葉」は重要である。

言葉によって、人や組織を成長に導くことが出来る(P3)

 我が身を振り返ってみれば、苦しんでいる時や困っている場面で

自分を救ってくれたのは上司や周りの人たちの「言葉」だったと思うし、

モチベーションが上がるも下がるも、どういう言葉を投げ掛けられたか

だったように思います。

 

だからこそ、リーダーは言葉というものを大切に扱わないといけませんね。

「それくらい、言葉にしなくても分かるだろう・・・」な〜んて言っても

女性の心が動かないのと同じかも(笑)

 

■俺に期待するな

著者の中竹氏は大学卒業後に留学し、会社勤めをして早大に監督として

復帰した時にはラグビーに関しては10年のブランクがあり、

なおかつ、指導経験は皆無だったので、

就任当初は相当に苦労されたそうです。

 

で、出て来た言葉が選手である学生を前にして「俺に期待するな!」

 

捉えようによっては監督としての責任放棄!みたいな言葉ですが、

もちろん、そんなワケはありません。 

上司は、本当は万能ではない。それでも、なんとか答えをひねり出し、

それを部下に与え続けると部下は自ら考えなくなる(P41)

 この本を読んで感じたことなのですが、中竹氏のリーダーシップは

終始一貫して、「選手自らが考えて行動できる自律性のあるチームづくり」に

目が向けられています。

 

「レトリック」といってもむやみやたらに美辞麗句を並び立てるのではなく、

基本的に選手一人ひとりに考えさせ、自ら気づかせることを重視しているのです。

 

例えば本文中にこんなことが書かれています。

「どう思いますか?」「どうしたらいいですか?」という質問の向こう側に

透けて見えるのは、私に対して「正解」を求める態度だ。

誰かが正解を与えてくれると期待していると、

いつまで経っても自ら考える態度は生まれ得ない。(P152)

「どうしたらいいですか」と学生が相談に来たら、「選択肢を持ってきて」と

追い返し、次に「AとBのどちらにしますか」とやって来たら、
「なぜ、その選択肢を挙げたの?」と聞き、

次に「君はどちらが良いと思うの?」と 、とことん考えさせるのだそうだ。

 

そういえば・・・

 

昔、私の上司で皆んなから影で「なぜなぜおじさん」とあだ名を

付けられていた上司がいて、会議で何か発言をすると、

「なんで?どうしてそう思うの?」と、とことん追求されたコトを

思い出しました。

 

思えば、その上司も私たち部下に対して「自ら考えるクセ」を

付けさせようとしていたのかもなぁと、今頃になって気づいたのでした。

(気づくのが遅過ぎ!)

 

話しを戻すと・・・

最近、「部下や後輩にいちいち仕事を教え込むよりも自分でやった方が

速い」と言っている人がいたりします。

まぁ、その気持ちも分からないではないのですが、

それではいつまで経っても成長しませんよね、自分も部下も。

 

上司、先輩の役割を仕事を回して、成果を出すという狭い範囲で

捉えるのではなく、少し手間が掛かっても、中竹氏のように

人を育てるという観点も必要だと思うのです。

 

■厳しくも、優しい言葉たち

中竹氏の指導の中で、「自律的な人を育てる」と並んで、

もう1つ重要視されているのが、

「その人らしさ」を大切にするということです。

 

例えば、

 

自分とはかけ離れたスタープレヤーのようになりたいと

言ってきた選手に対して、「完全に自分を見誤ってるな」と判断し、

その選手に「今、君じゃないやつの話しを聞いた気がする」と諭し、

最後には選手自身の口から「すみません、僕は僕じゃない人間に

なろうとしていたみたいです」と気づかせるのです。

生まれながらにして、一流と三流がいる。そう言い切ってしまうのは

残酷に聞こえるかもしれないが、努力だけではどうにも越えられない

壁が現実に存在する(P141)

三流の人も確実に輝くことができる。一流の人のようなピカピカの

才能ではないけれど、他の人にはない個性を確実に持っているからだ。

その個性を生かすゴール設定をすれば、どんどん磨かれていく(P145)

早大のラグビー部には百数十名の部員がいるそうです。

その中でレギュラーになれるのは15名。

つまり、殆どの選手が試合には出られない。

でも、だからと言って二流、三流の選手を切り捨てたりはしない。

 

冒頭にイチロー選手のことを書かせて貰いましたが、

誰もが彼のように努力をしたからといって、

(残念ながら)一流の選手になれるわけではないと思う。

 

だけど、人にはそれぞれ個性があり、その個性を大切にして磨いていくことで、

ナニモノかにはなることが出来ると思うし、そう信じたいのです。

 

「レトリック」・・・確かに人を動かすのに、言葉は大切だと思います。

しかし、言葉にはそれを話す人の心が自然と宿ってしまうし、

心無い言葉には、それが例えどんなに含蓄があるものでも

人を動かす力は無いと思うのです。

 

この本を読むと中竹氏の言葉の隅々からは、それが厳しい言葉であっても

一人ひとりを大切にする「心」を感じることが出来ました。

 

■常識のウソ?

私がこの本を読んで猛省したことがあります。

というのは・・・

 ●「夢」はいらない

 ●「森」よりも「木」を見よう

 ●チームワークを捨てよう

といった自己啓発本にありがちな内容とは真逆のことが書かれていて、

それが奇をてらったものではなく、

読めば「なるほど!」と納得するものばかり!

 

例えば・・・

スポーツ(ラグビー)チームでは、何よりも『チームワーク』が大切で、

みんなで協力し合って、勝利をつかむ。。と、普通は考えてしまいますよね。

 

でも!著者は「チームワークは本来的には、チームビルディングの

一手法でしかない」といい、ケースによってはチームメイト全員を

ライバルとして厳しい競争環境の中で切磋琢磨した方が良い場合もあり、

それによって勝利したこともあるとか。 

私たちは安易にステレオタイプに当てはめがちだ。

これは人間の脳のクセらしい。(P203)

 まさに常識にとらわれて何の疑いも持たずに信じ切ってしまっていることが

なんと多いことか!結局、自分の目で見て、自分の頭で考えることを放棄し、

安易に常識にもたれ掛かっていただけなのだ!

 

私が思うに・・・

 

「夢を持とう!」「森全体を俯瞰してみよう」「チームワークを尊重しよう」

こういうある意味、真っ当なことを言っておけば余計な反論を受けることも

少ないだろうし、多くの人が納得してくれる。

だから、ステレオタイプ的なことを言っておけば「とりあえずOK」と

安易に流されているんじゃないかなぁ、って思ったんですよね。

 

この本を読んで、もっと本質的なことに目を向けること、常識を疑って、

自分の頭で考えることの大切さを改めて思い知らされました。

 

◇最後に・・・

監督とかリーダーというと強くて、厳しい姿を想像してしまいますが、

この本の中で中竹氏は自身について

オーラがなく、カリスマでもない素人監督」と

書かれています。

 

確かにこの本を読んでみると、いわゆる昔ながらの監督やリーダーの

イメージとはちょっと違う。

 

もちろん厳しさや強さはあるのだけど、

チームの先頭に立ってみんなを引っ張っていくというよりは、

選手一人ひとりと一緒に考え、背中を押してあげる、

そんなリーダー像が目に浮かんできました。

 

今、企業の現場では「上司・管理職に就きたがらない」人が増えている

というようなことを時々、見聞きします。

 

その原因として、リスクを取りたくない!とか、

必要以上の激務に耐えられない!とか色々いわれています。

 

そして、きっとその中に「自分はリーダータイプではないから」という理由も

あるのではないかと思うのですが、そう考えている人にこそこの本を是非とも

読んでほしいなぁって思いました。

 

「リーダーとは、斯くあるべきだ」というのは、

単なるステレオタイプのイメージでしかなく、

色々なやり方があるんだ、ということに気づかせてくれる1冊だと思います。

 

そして何より・・・

 

お金を残すは「下」

仕事を残すは「並」

人を残すは「上」

 

という言葉がありますが、「自分で考えて行動できる人」を育てるという

中竹氏の理念は、まさしく人を残すことに通じるものがあると思うし、

自分が親や先輩、上司から育ててもらった恩を

次の世代に返していくことが、何よりも大切なことだと

この本を読んで改めて教えられた気がしました。

 

以上、長々と失礼しました。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 

posted by penguin-oyaji at 22:15 | Comment(0) | 読書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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