2009年08月05日

命の始まりと終わり・・・・「ターミナル・エクスペリメント」


Book-No.147
「ターミナル・エクスペリメント」

ロバート・J・ソウヤー 著
内田昌之 訳
早川文庫SF



このブログにいつもコメントを下さるeries.mさんが
ブログでこの本を紹介されているのを読んで、
興味がわき、早速手にとってみました。

一応、早川SF文庫から出ていて、
ジャンルは「SF」ということになると思うのですが、
内容はSF+ミステリーって感じです。

SFというと、中には難解なものもあって、
私はどちらかというと苦手なジャンルなのですが・・・

でも、この物語は先ず舞台が近未来の2011年で、
(ちなみにこの作品の発表は1995年)
ストーリー的にも夫婦間の浮気など、
けっこう泥臭い(?)話しとかも絡んでくるし、
何よりも後半のストーリー展開が
ハラハラ、ドキドキで、一気に読ませてくれます!

■ストーリー

医学博士のホブスンは、死にかけた老女の脳波の測定中に、
人間の「魂」とおぼしき小さな電気フィールドが脳から
抜け出てゆくのを発見した。
魂の正体を探りたいホブスンは自分の脳をスキャンし、
自らの精神の複製を三通り、コンピュータの中に作りだした。
ところが現実に、この三つの複製のうちどれかの仕業としか
思えない殺人が次々に果たして犯人はどの「ホブスン」なのか?
1995年度ネビュラ賞に輝く衝撃の話題作。
(Amazonの商品紹介より転載)


■命の始まりと終わり

光のこぶは、心臓が止まった直後に、呼吸が止まったすぐあとに
肉体を離れていった。
ピーターは、まさにさがしもとめていたものを発見した。
命が尽きたという疑念の余地のない標識、患者がただの肉と化して
臓器移植の準備ができたという明白なしるし
」(P115)

魂波は妊娠九週間から十週間のあいだのどこかであらわれるのだ。
それ以前は、魂波は単に存在しない。もっと詳細な調査をおこなって、
魂波が胎児の脳の内部で発生するのか、それともーより可能性は
低いと思われるがー外部のどこかから到来するのかどうかを
確認しなければならなかった
」(P143)

改正臓器移植法が最近、話題になりましたが
そこで論議されていたものの一つが「死の定義」でしたね。

実は、もう一つ。人の命の誕生はどの時点なのか、についても
明確には定義されていないように思います。

この物語の中では、「魂波(ソウルウエーブ)」と名づけられた
電気フィールドが肉体から離れる瞬間、胎児に宿る瞬間が
命の終わりと始まり、というふうに明確になることで、
それまでの世の中の常識が次々と覆り、
その様子が文章中に何度も「ネットニュース・ダイジェスト」という形で
記されています。



今回の国会での臓器移植法改正論議などを見ていて
改めて思うのは、私たちの「死」というものは、
あくまでも「取り決め」なんだなぁ、ということです。

医学的、科学的な立場から見たときに
人の死や脳死が、どんなふうに定義されるのか
詳しくは知りませんが、少なくとも脳死を死とするかどうかは
議論や多数決で「取り決め」られることなんですよね。


この物語の中では他にも臨死体験や、妊娠中絶などの場面も
描かれていて、人の命の誕生と死ということについて
改めて考えさせられます。

■ヴァーチャル・ライフ

ピーターは魂の正体を探るために自分の脳をスキャンし、
自らの精神のシュミレーションをコンピューターの中に作り出す。
一つは死後の生をシュミレートした「スピリット」、
ふたつめは永遠の生をシュミレートした「アンブロトス」、
そして三つめはなにも手を加えない「コントロール」だ。
ところが、この三つのシュミレーションのうちどれかが殺人を犯す。
はたして犯人は誰なのか?

(P461 「解説」より抜粋)

この物語のキモは、やっぱりコレですよ!

コンピューターの仮想空間に作り出された自分の脳の分身が
現実世界での殺人を犯してしまうのです。
どうやって・・・?(それは物語を読んで楽しんでくださいね)

そして後半では、この殺人鬼と化したシミュレーション・プログラムと
現実世界の本人(ピーター)との戦いが繰り広げられるのですが、
読んでいて一気に引き込まれましたね。


本当に、面白い!



また、それとは別に、死後の生(魂)となったシュミレーションや
永遠の命を手に入れたシュミレーションが
仮想現実の中で、それぞれどのような感情、考えをもつようになるのか、
という点も、人の命、人生の本質に迫っていて、
興味深く読めると思います。

■感想とか・・・

1995年時点で描く2011年の姿って、こんなふうに
想像されていたのね、という視点で読んでも、楽しめますね。

空飛ぶ自動車とかは出てきませんが(笑)、
物語の中で描かれている2011年の世界は、
再来年に迫った今の時点と比較してみても、
世の中、まだこんなに進歩しとらんぞ!」という部分もあれば、
こんなのもう古いぜ!」という部分もあって、
そんな細かい突込みを入れつつ、読むという楽しみあります^^;;

特にコンピュータに関する記述を読むと、
完全に現実世界の方が先に進んでいて、
言い換えれば、95年時点では今の状況は想像すら出来なかった、
ということですね。

まぁ、そういう細かい話しは脇に置いといて・・・

450ページもあって、ちょっと長い物語ですが、
ぐいぐいと引き込まれて一気読みできます!

それに、物語のエンディング、「エピローグ」を読むと、
何だかちょっとほろりと優しい気持ちにもなったりして・・・

SFというジャンルはあまり気にせずに、エンターテイメント作品を
読むつもりで、物語を楽しんでみるのが良いと思います^^


最期に改めて・・・この本を紹介してくださったeries.mさん、
ありがとうございました。とても楽しめましたよ。


最期までお付き合いくださり、ありがとうございました。
posted by penguin-oyaji at 16:28 | Comment(2) | TrackBack(1) | 読書(小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
う、嬉しい!!!

ページ開いて「表紙」が出てきたとたん、
おぉ〜っ!と声をあげてしまいました^^;
そして、さすがペンギンオヤジさんですね。
私の記事とは格段のレベルで、この小説の「キモ」を伝えていただいて。
何よりも、「本当に面白い!」と言っていただけて、
本当に嬉しいですっ!
ありがとうございます。

エピローグのところ、ここも大好きな部分なので
ペンギンオヤジさんにも気に入っていただけたようで・・・良かった。

初めて読んだ2000年頃から年に1回ペースで読み返しているので、
「1995年からみた2011年」だという事すっかり忘れてました。
今度はそういう視点で読み返そう、と思いました。


それから・・・
「解り易く伝える」という事はこういう事だって、よくわかりました。
ペンギンオヤジさんのこの魅力的な記事で
この本を読んでくださる方、絶対増えると思います。
ありがとうございました!







Posted by eries.m at 2009年08月06日 00:51
eries.mさん、こんにちは。

この本、とても面白かったですよ!
教えてくださって、ありがとうございました。

色々とお褒めの言葉を書いていただき、
ちょっと照れくさいのですが(*^^*)嬉しいです。ありがとうございます。
でも、eries.mさんがブログに書かれていたことが、
私をこの本に導いてくれたわけですから、
eries.mさんの書かれた文章も充分、魅力的ということですよね^^

エピローグも良いですよね〜
特に最後の2行が好きです。

何度も読み返される気持ち、とてもよく分かりますよ。
本当に面白いですものねぇ。
私も定期的に読み返す本がありますが、心に響くものは
何度読んでも飽きないですよね。

また、何かオススメがあったら教えてくださいね。
いつも、ありがとうございます。
Posted by penguin-oyaji at 2009年08月06日 15:11
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Tracked: 2009-08-05 17:05